フォトレポート

アーカイブス「看護研究のコツ」

1.研究テーマの見つけ方

 山梨県看護学会委員会が行った調査において、研究を行ったことがない理由のトップは「課題(テーマ)がない」でした。研究の必要性は理解していても「研究」となると肩に力が入り、どんなことがテーマになるか?悩んでしまう方が多いようです。

 日々の看護実践のなかで「なぜ?どうして?」「もっとこうなればいいのに!」と疑問や問題意識を感じることはありませんか?その疑問や問題意識を客観的に筋道立てて思索することで、研究につながる課題(テーマ)となり得ます。感じたことを文字にする、意味を調べる、実践場面を丁寧に観察する、文献を読む、同僚や専門家と意見交換するなどを繰り返しながら、問題意識を深め、形にしていくことが大切です。『何を明らかにしたいのか』『どうすれば明らかになるのか』を念頭に置くこともポイントです。この過程は時間と労力がかかりますが、課題が明確になれば実は研究計画の大半はおのずと決まってきます。看護実践に研究的視点は欠かせません!漠然と感じた疑問などを課題として、研究を始めましょう。

2.看護研究における倫理的配慮について

 看護研究は「看護の質向上」を目的とすることは多くの皆さんが承知していると思いますが、倫理的配慮を怠ると、研究に取り組むことが対象者の害となることもあります。倫理的配慮は、研究計画を立てる段階で、調査前から結果の公表に至るすべてのプロセスについて、十分に検討し実践することが重要です。

 “研究協力の同意を得る”を例に挙げると、同意を得るためには事前に研究目的や情報の取り扱い、参加の自由等に関する十分な説明が必要です。研究協力に関する疑問を確認する連絡先や協力撤回方法の提示はもちろん、研究参加について十分に検討する時間を確保することも重要です。また、「参加は自由意思」と伝えていても、同意書や調査用紙の提出をチェックしたり、提出を促したりすることはありませんか。これでは研究参加への強制力が働き、自由意思を尊重していないことになります。

 このように、研究プロセスの様々な場面を想定し、具体的な検討や配慮のもとに研究を計画する必要があります。どんな配慮が必要か、迷ったら相手の立場に立って考えてみると、おのずと配慮すべきことが見えてくるかもしれません。ぜひこの機会に「看護研究における倫理指針」(日本看護協会,2004)、「看護研究のための倫理指針」(ICN国際看護協会 日本看護協会訳,2003)を精読ください。(インターネット検索で、全文をご覧いただけます)

3.論文のまとめ方

 論文をまとめる際、何から手をつければいいのか迷うことも多いと思います。まずは、ご自身の論文の構成を検討し、一貫性のある内容であることを確認するとよいです。「この研究で何を明らかにしたいのか」が研究目的になります。論文は、この目的を幹に置き、1.はじめに 2.目的 3. 方法 4 . 結果 5. 考察 6. 結論 7. 文献リストで構成します。目的に沿って計画された研究方法を丁寧に述べ、そこから得られた結果と考察を目的に沿ってまとめます。特に結果と考察の部分では、以下の点に留意が必要です。

 【結果】を示す際に大切なことは、研究目的から外れないことです。いくつかの分析データの中から、目的に対して重要な内容だけを示します。この時、自分の都合の良い結果や派手な結果に惑わされないように気を付けます。自分が導き出した貴重な結果を読み手に伝えるために、図や表なども活用しながら分かりやすい文章で説明します。【考察】では、目的に沿って、研究結果が何を意味しているか、何が明らかになったのかを述べます。推測を避け、あくまでも研究結果の範囲内で述べます。拡大解釈や勝手な一般化、過小評価に気をつけます。

 もう一つのコツは、読み手に分かりやすいことです。多くの人に読んでもらい、意見をたくさんもらうことが大切です。論文の表現の仕方は体験を通して覚えていきます。ぜひとも、論文作成に挑戦してください。

4.論文をまとめる意義

 学会発表された方はお疲れ様でした。看護研究はこれで終わりでないことをご存知ですか。あなたが研究計画書を作成する時に一番初めにしたことは、「自分と同じようなテーマの研究はないか」「このテーマはどこまで調べられているのか」といった文献検索でした。そしてあなたが読んだ「文献」は研究論文だったはずです。同じように、今回あなたが調べたこと、明らかにしたことについて、実は他の人も知りたいと思っているかもしれません。お互いが持っている研究成果を共有するための一つの手段が、論文発表です。抄録だけでは情報量が少なく研究のプロセスや結果の詳細を伝えることができませんので、論文という形にしていきます。具体的な論文の書き方は、前回のコラムを参考にしてください。

 あなたが明らかにしたことを深く知り、活用してみる人も出てくるかもしれません。こうして私たちの手によって創出された成果が、論文を通して議論・活用されることにより看護の質が高まっていきます。

 あなたが取り組んで得た貴重な財産を看護研究の集大成として、ぜひ論文にまとめましょう。論文による報告は、間違いなく看護の質向上の一歩となります。

5.論文投稿のマナー(二重投稿、著作権に気をつける)

 看護実践の質向上のためにも、研究成果は論文として投稿することが望ましいと前号で書きました。論文掲載を目指す学術誌の投稿規定を手に入れ、そろそろ論文骨子を決めたところでしょうか。ここで、皆様に気をつけてほしい二重投稿と著作権についてお伝えします。

○論文は未発表のものに限ります。既に掲載された論文はもちろん、まだ掲載が決まっていない投稿中の論文であっても、同一内容またはきわめて類似した内容であれば、二重投稿とみなされます。投稿する学術誌の専門性が異なっていても同じです。共同研究者間で投稿する学術誌とその内容については、よく吟味して決定してください。

○著作権者に無断で掲載することのないように留意します。文章を引用する際には、一次論文を入手し、投稿規定に従って明記します。既存の尺度を使用して研究した場合も、尺度の作者から許諾を得たことを明記してください。論文に掲載された本文や図表の著作権は学会や出版社に移り、ご自身の論文・自作の図表やイラストであっても無断で転載できないことが多いです。著作権に配慮して転載許諾をとり、出典を明記する必要があります。

○二重投稿の定義や著作権の取扱いについては、急速に変化しています。各学会誌や各出版協会の最新情報に目を向け、貴重な研究成果が採択取り消しとなることのないように早目の確認をお勧めします。

6.研究方法について

 研究者が何を明らかにしたいかにより、研究方法は異なります。研究のテーマや目的を明確にしたら、どのような方法でデータを収集し、分析するかと研究目的に応じて研究方法を検討します。研究方法は大きくは量的なアプローチの研究と質的なアプローチの研究に分かれます。量的なアプローチは、調査用紙や実験などにより得られたデータを記述統計や推測統計を用いて分析します。一方、質的研究はインタビュー・面接・参加観察などから得られたデータにより分析します。例えば、ICU看護師の倫理的配慮についての研究でも、面会中の家族にどのような倫理的配慮を行っているのかをその場で起きている現象から明らかにする場合は、インタビューガイドを作成した面接法や参加観察法といった、質的アプローチを選択します。また、倫理的配慮の実践が看護師の業務時間と関係するのかを明らかにする場合は、質問紙法や実際を記録するなどの測定結果を用いてデータを取り、量的アプローチを用いるなどです。

 このように、まずは、日頃皆さんが感じている疑問や明らかにしたいことを沢山集めて、目的をできるだけ具体的にしましょう。そして、多くの研究方法からより明確にできる方法をふるいにかけてみましょう。目的に応じた研究方法を緻密に計画することは研究の鍵となります。

7.調査票(質問文と回答文)作成のコツ

 調査の目的が明確になり調査項目が決定したら、いよいよ調査票を作成します。まず質問文は、曖昧な表現にならないように注意します。例えば、「あなたはきちんと指示の内服薬を飲んでいますか?」という質問文は、指示された量のことを質問しているのか、あるいは指示された時間のことを質問しているのかが曖昧であり、さらに何を持って「きちんと」と評価するのかが曖昧です。指示量を守って、指示時間を守って、など具体的な質問文にしましょう。次に、「健康診断は病気の予防に役立たないと思いますか?」「1)思う2)思わない」という否定文の質問文は、役立たないという人は「思う」を選択し、役立つと言う人は「思わない」を選択することになり、紛らわしくなります。質問文に否定文を使うのは避けたほうが良いでしょう。また、「当院外来の看護師や事務職の対応は良かったと思いますか?」という質問文は、看護師の対応は良かったが、事務職の対応が悪かった場合に回答しにくくなります。1つの質問文には2つ以上の質問が含まれないようにしましょう。

 回答文は、自由回答、選択回答、順序回答があります。自由回答形式は、文章や単語、数値を記入してもらう方法です。選択回答は、回答肢の中からどれかを選ぶ方法で、順序回答は、回答肢に順序をつける方法です。質問文に合った選択肢を用意することはもちろん、その後の分析方法も考えて回答文を作成しましょう。

8.得られたデータの分析方法

 研究のデータ収集ができたら、どのような方法を用いて分析していくとよいのでしょうか。質的研究において観察記録や口述記録、自由回答式のアンケート結果などのデータが増加していくと、研究が進んでいるという手ごたえを感じる一方で、そのデータの山から焦点化された結果を導きだす作業は、苦手と感じることも多いでしょう。データ収集中から、データ分析を少しずつ進め、考察への見通しがつくようにしておくことが大切です。例えば、対象者の考え方・感じ方、行動の意味などを理解することが中心的な部分であったら、データ分析では、それらを捉えるためのヒントや手がかりとなるものをデータから抽出して分類する作業をします。研究者自身の信念や感情が分析結果に大きく影響することもあり、指導者から助言を受けるなどして、極端な偏りが生じないよう客観的な目で見て、分析や解釈を入念に繰り返していく必要があります。分析方法・結果には「正解」はなく、研究者の力の見せ所といえます。

 量的研究では、研究者の立てた仮説を検証するためのデータの収集が重要になります。集めたデータ(年齢や性別など)の特徴を、データの種類に応じて抽出し把握をします(記述統計)。各データの分布や割合を、表やグラフで表記するとすっきりとします。その後何を明らかにしたいかによって、各データの相関分析や比較などの検定(推測統計)を行います。データの種類によって、記述統計や推測統計による表現法や比較法が異なります。データを分類したり検定したりする際には、種類に気をつけましょう。

9.看護研究のデータの管理について

 看護研究では患者個人の情報や看護師、施設の情報といった内容を収集しデータ化しています。そのデータ管理は慎重に行わなければなりませんが、近年ニュースなどで情報の入ったパソコンやUSBの紛失、情報漏えいなどを耳にすることがあります。情報の外部への持ち出しやパソコンのセキュリティー管理などには十分に注意が必要です。

 管理方法として「データや資料を外部に持ち出さない・第三者の目に触れる場所に保管しない・データファイルにはパスワードを設定するなど厳重保管する。なお、パスワードは第三者の目につきにくい形でデータファイルとは別に保管しておく・メールでデータを送る場合はデータファイルを添付したものと同一のメール上にパスワードを記載しない・FAXはかけ違いの恐れがあるため使用せず書留や配達証明がとれる形で極力郵便配達を使う」(日本看護協会,看護研究における倫理指針,2004)の配慮が必要です。また、研究に係る資料及び情報等は「可能な限り長期間保管されるよう努めなければならない」(文部科学省・厚生労働省,人を対象とする医学系研究に関する倫理指針,2014.12.22)となっているため、紛失や漏えいが無いように管理することが必要です。

 私たちが扱う情報は職務上知りえた情報で法律の規定に基づいて特別に課せられた守秘義務がある事を理解し、もう一度管理方法について考えてみましょう。

*上記( )の文献は日本看護協会や厚生労働省のHPから見ることができます。

10.山梨看護学会に参加してみませんか

 看護学会に参加したことがありますか?「ちょっと難しそうだから」と敬遠してはいませんか?山梨看護学会は毎年テーマを決め、県内の看護職が取り組んだ研究の発表・ディスカッションなどを行っています。私たち看護職は毎日より良い看護ケアを提供できるように奮闘しています。でも、現場では深く考える時間も取れず、思うような看護が実践できない事もあるかもしれません。当看護学会では「新たな知見」「工夫を凝らしたケアの方法」などの発表を聞くことが出来ます。会員だけでなく非会員も学生も参加できます。記念講演やシンポジウム・医療機器メーカーや書店のブースからも最新情報を得ることができます。

 平成28年度は361名の参加がありました。県内の様々な現場で働いている看護職の人たちと交流する機会が得られることも、学会のもうひとつの楽しみです。もしかしたら卒業以来会えなかった旧友と再会できるかもしれません。そんな山梨看護学会にあなたも参加してみませんか。

11.わかりやすい学会発表のための工夫(口演編)

 演題登録が終了し査読を経ると、次に待っているのはいよいよ発表です。この機会を与えられた時に、自分の言いたいことをどう伝えるかということが今回の主題となります。その時に有効なのがポスターやパワーポイント(スライド)という発表媒体を使うことです。抄録は研究内容を凝縮しているので、説明を加えないと聞き手には深いところまで理解できません。聞き手にわかりやすく説明するためには、見やすく、内容の理解を促すことができる表や図、写真等を的確に選択することが必要になります。文字と写真を効果的に使うことで臨場感を表せますが、写真の説明に時間を取られることは避けなければなりません。あくまでも写真は説明の付属として捉えましょう。見やすくするためには、文字の大きさや行数にも気をつけなければなりません。行数は1ページに8行程度、文字は明朝体が一番見やすいと言われています。アニメーションを使い過ぎるのも逆効果になります。表や図は見せることを優先させ、文字の大きさに気をつけ、説明は必要な部分だけとし、出典を明確にしましょう。さらに発表時間にあったものとしなければなりません。スライドは1ページを1分程度で発表することが最適と言われていますので、発表時間に合わせて枚数を調整してください。スライドに書かれている内容と演者が話している内容が異なると、わかりにくいことがありますので、できるだけ聞き手が理解しやすいように伝える工夫が必要です。

12.わかりやすい学会発表のための工夫(ポスター編)

 示説はポスターセッションとも呼ばれ、多くの学会で取られる発表の方法です。ポスターという視覚的な媒体で自分の言いたいことをどう伝えるか、ということが今回の主題です。内容の理解を促す表や図を的確に選択し、聞き手に伝わるものにしてポスターには積極的に活用します。ポスターを見やすくするためには、表と図を含め、字の大きさも気をつけ、見せることを第一とします。特に表は横線を省略して、色により行を区別するなど、色を使った工夫をすると見やすいポスターとなります。また、出典は必ず記入してください。写真を使うのも効果的ですが、写真の説明に時間を取られることは避けなければなりません。発表時は表や図、写真の説明は必要な部分だけとします。ポスターは長い時間貼っておくことが多く、聞き手と直接質疑応答できるのも醍醐味です。発表テーマに関心のある方との情報交換ができたり、交流が広がる可能性もあります。聞き手の興味を引くポスターと、発表者の積極性がポスター発表の鍵と言えます。また、抄録や説明を加えた資料を配布出来るように用意しておくこともポイントになります。

13.査読って何? ~より良い論文にするために~

 皆さんは、査読という言葉を聞いたことがありますか?広辞苑によると、「投稿論文などを審査するために読むこと」とあります。つまり、研究者が所属学会の学会誌等に作成した論文を投稿すると、そのテーマや内容に精通した研究者が論文を読み、審査することです。通常査読者は2人と設定されることが多いですが、学会によって異なります。

 ほとんどの学会では査読の際に、投稿者の所属や氏名はわからないようにして、査読者に論文が渡されます。投稿者に査読結果を伝える際にも査読者が誰かはわかりません。公平性を保つためにも、お互いがわからないようになっているのです。査読者は、学会が定めた選考基準に則り論文を査読します。その結果、総合判定がなされます。「修正の必要はない」「修正すれば掲載可」「不採択」などの判定結果があります。「修正の必要がない」場合は、投稿したままの論文が掲載されることになりますが、修正する必要がある場合、指摘事項(コメント)が付されてきます。査読者が投稿者の論文をより良いものにするために、指摘をするわけです。この指摘に対し回答し、修正して論文を再提出することになります。再査読は同じ査読者が行います。

14.査読結果が手元に届いたら

 今回は、査読結果が手元に届いた後、研究者が行うことについてお伝えします。12月の山梨看護学会のミニレクチャーでも取り上げましたが、査読を怖がる必要はありません。査読結果は、研究者の研究をより良くし、投稿に結びつけるためのコメントです。内容に一喜一憂することなく、査読者が指摘した内容をまずはよく読み確認しましょう。査読者の指摘は何か?それを修正する必要があるのか?修正するとすればどのように行ったらよいか?など検討しましょう。そして、検討に基づいて一つひとつ論文を修正します。それと同時に、査読者宛に「回答書」を作成しましょう。

 査読者の指摘について、もっともな指摘であると思い、納得して修正する場合は「査読者のご指摘を受け○○のように修正しました」と、修正した箇所がわかるように具体的に回答しましょう。修正する必要がないと考えた場合についても、なぜ研究者が修正をしなかったのか、その根拠を示す必要があります。「査読者のご指摘にありました内容については○○のように考え、修正を致しませんでした」など、理由を明記しないと、研究者の意図が伝わりません。書面のみのやりとりですから、お互いの意図するところが相手に伝わるように、具体的に記載しましょう。

 査読者に敬意と感謝を表し、感情的になることなく修正することでより良い論文となります。頑張りましょう。

15.院外発表のススメ

 前回までに、査読の目的と対応について説明してきました。次のステップとしては査読で研磨された研究成果を発表することになります。研究発表の種類は口述発表と誌上発表の2種類があります。口述発表は、「ポスター発表」「口演発表」であり、誌上発表は論文として学術雑誌や看護関連雑誌に掲載されることを言います。

 研究発表の場は、一般的に次の6種類に分類されています。施設内での研究発表会、山梨看護学会など地区での研究発表会、日本看護協会が実施する研究発表会、各種研究会、看護近接領域の関連学会、日本看護科学学会などの学術学会があります。その他国際学会などです。

 なぜ発表することが必要なのでしょうか。研究結果を発表する意義としては、「知識の公開・共有」「他の人々から知見を得る」などと言われています。より多くの人と研究結果を共有してその成果を広めたり、意見を交わして内容を深め新たな気づきや疑問が得られたりすることで、看護実践の改善に繋がり、更なる疑問を解決するための研究の発展に繋がります。「看護実践の質の向上」という看護研究の目的を果たすことになります。

 研究後は、是非、自施設だけでなく、山梨看護学会など施設外での発表を行い、看護実践の進歩へと繋げていきましょう。

16.文献検索とは?

 研究に取り組むにあたり、研究テーマに関する知識を深め、研究を根拠のあるものにするために先行研究の情報を集めておくことが必要です。今回は、先行研究を検索するコツについてお伝えします。

 検索をして得た文献は、引用参考文献として論文を仕上げるまで必要になります。文献検索の活用は、取り組もうとしている研究の背景(何がわかっていて、何がわかっていないのか)を述べる時に、また考察の段階では、自分の研究結果を先行研究と比較する時に使用し、独りよがりな論文にならないようにします。そして、はじめて論文を書く場合、先行研究は分析方法や論文の書き方、結果の表の作り方などの参考になります。

 文献検索は、いきなり図書館に行って本を探すのではなく、インターネット上の文献検索システムをお勧めします。日本看護協会の会員であれば「最新看護索引Web」を無料で利用することができ、国内発行の看護文献のデータベースを検索できます。そのほか医中誌WebやCiNiiがあります。無料で全文を閲覧したい場合には、各大学等の図書館を利用するのが良いです。そのほかGoogle Scholarもお勧めです。インターネットで検索すると、テーマとしている研究以外の様々な情報や内容の信頼性が低いものがありますが、Google Scholarは学術論文に特化した検索が可能ですし、全文が閲覧できる場合があります。なお、山梨県看護協会では、調査研究や学習を進めていく際に起こる様々な問題について、相談や質問などに応じています。

17.キーワードについて

 今回は文献を探すうえでとても重要な「キーワード」についてお伝えします。文献を見つけ出すにはキーワードが文字通りカギとなります。適切なキーワードで検索をしなければ、検索漏れが出たり、的外れな論文が多く検索されたり、適切な文献にたどり着けないことになります。また、医中誌などのデータベースは、タイトルに使われているキーワードが主な検索対象なので、1つのキーワードだけでなく、関連するキーワードを駆使して検索する必要があります。ここで役立つのがシソーラスです。シソーラスとは同類語のことで、文献検索のデータベースからシソーラスを検索することが出来ます。例えば「医療事故」について調べたい場合に、「医療事故」と検索しても見つからない場合、同義語または類似語である「事故」「アクシデント」「医療過誤」というキーワードを使うことで見つかることがあります。また「看護研究の文献検索の方法」と文章で検索するより、「看護研究 文献検索」や「看護研究 文献検索 コツ」と単語で入力することで、より多くの文献情報を入手することができます。そして、キーワードを一度にいくつも入れて検索をするより、キーワードを少しずつ足していくほうが的確な文献が見つけやすくなります。

 参考になる文献を効率よく見つけ、看護研究をサクサク進めましょう。

18.クリティークのすすめ

 前回まで、文献を効率よく見つけるコツについて触れてきましたが、「これが、自分が必要としている論文だ!」というものが見つかったら、早速、論文を読んでみましょう。
 クリティーク(critique)とは「批判」「批評」「評論」と言った言葉に相当する英語です。看護研究のためのクリティークの役割は、その論文の間違いを探すことではなく、適切と不適切、長所と短所を客観的に指摘することといった解釈がされています。
 しかしながら、論文を読み慣れないと何をどう読んで良いか、これで良いのか迷うことがあるかもしれません。クリティークの視点やガイドライン、チェックシートといった書籍や文献がいくつか出されています。それらを参考にしながら、まずは複数の人で論文を読み、論文を読むということに慣れていくことが大切です。
 また、自分が研究しようとしていることがどこまで研究されているかを確認するためにもクリティークは重要です。既存の研究について十分に確認し、自身の研究に活かしましょう。
 このように研究論文をクリティークし、研究そのものの質を高めることが、現場での実践と応用につながり、看護の質を高めることになるのだと思います。そのためにもできるだけ多くの論文に触れ、“クリティークの力、文献を読む力”を肥やしてみてください。

19.計画書はすっごく大切!

 研究計画書は、看護研究をきちんと遂行するための設計図といえます。自分のやりたい研究を始める前に計画書を作成し、自分や共同研究者、指導者と内容を共有することはとても大切です。計画書に必要な項目としては、1.研究テーマ(課題名) 2.研究代表者および共同研究者 3.研究背景 4.研究の意義 5.研究目的 6.研究方法(対象・期間・方法・手順・分析方法)7.倫理的配慮 8.結果公表の予定 9.今後のスケジュール 10.予算が挙げられます。1.の研究テーマは主要なキーワードを含めて、研究全体がイメージできるようなタイトルがよいでしょう。3.研究背景には先行研究の検索や関連文献の検討も含まれます。じっくりと時間をかけて調べましょう。7.倫理的配慮に関することは、投稿する学会の指針を事前に確認するとよいです。山梨県看護協会も研究倫理委員会を設置しており、上記の項目に沿った倫理審査を行っています。詳しくは山梨県看護協会ホームページの「協会のご案内」をご覧ください。
 わからないことがあれば、1人で悩まずに、職場の先輩(上司)、あるいは看護研究を専門としている方に相談してみましょう。適切な助言が得られると思います。

20.探索する楽しさを感じよう!

 お正月、庭でカマキリの卵をみつけました。その卵は、地面から1メートル程度の木の枝にあり「なぜ、この位置なのか?」と疑問に思い、調べてみると、カマキリはその年の積雪を予測して卵を産むことがわかりました。さらに調べると、木の性質と地球の水分量などが影響していることがわかり「へえ~、そうなんだ。おもしろい!」と感じました。
 看護研究においても、このように「なぜだろう?」「どうしてこうなるのかな?」というちょっとした疑問が大切かもしれません。そして、探求する楽しさを感じ、新しいことがわかると、昨日までの見慣れた景色がちょっと違って見えるかもしれません。
 看護研究とは、看護の実践や教育、管理など直接的・間接的に看護ケアに影響を与える事象について行う研究のことです。その役割は、日頃の様々な現象から看護のはたらきかけを抽出し、定義・説明することやその効果を検証することです。看護研究は、看護実践の質の向上につながります。まずは第一歩、看護研究の扉を開きましょう!
 また、研究することの楽しさを自分一人だけでなく、職場の同僚や看護職の後輩や先輩などの仲間と一緒に味わえると、さらに楽しさが倍増するのではないでしょうか。山梨県看護協会および山梨看護学会委員会では、皆さんの看護研究をサポートしています。(詳しくはホームページをご覧ください)

21.科学的根拠に基づく実践(EBP)を目指した看護研究

 医療は、臨床研究によって生み出される最新のエビデンスに基づいています。看護職は、経験や直感だけではなく、科学的な裏付けや根拠に基づく実践(Evidence-based practice)をするためには、看護研究は必要不可欠です。
 約30年前、基礎看護学の講義で「排痰法の1つにタッピングがあります。手をお椀のように丸くします。叩く振動で痰を移動させます」と、背中をリズミカルに叩いていた教員の姿を思い出します。そして、看護師1年目、呼吸器内科病棟に配属された私は「患者さんのため!」と何の疑問も持たず、吸入や吸引と一緒に張り切ってタッピングを行っていました。
 現在は、体位ドレナージなど、肺理学療法が効果的とされ実践されています。看護職の私たちは、常に他職種と協力しながら研究(看護研究)を積み重ねてきた結果であると思われます。当時、私のケアにちょっと痛そうな表情をした患者さんたちの顔が頭をよぎり、今思うと切ない気持ちになります。患者さんが感じている痛みや苦しさも、ケア後には「すっきりして苦しくない」と笑顔で言われるよう、日頃から科学的根拠に基づく実践(EBP)をすることの大切さを改めて感じます。
 情報社会である現在、看護に関する情報も簡単に得やすいです。私たちが、科学的根拠に基づく実践(EBP)を目指すためには、情報の一つである看護研究に対して「信頼できる」「妥当性がある」と判断できる能力を養うとともに、どう実践に活用できるかを考えていくことが、第一歩になります。

22.Web開催がスタンダードに!?

 山梨看護学会委員会は、今年度の学会開催方法について何度も議論を重ね、最終的にWeb公開とし、12月7日~25日を視聴期間として開催しました。従来の口演あるいは示説の発表形式を変更し、ナレーションを記録したスライドを用いて発表していただきました。委員会活動の一環として、演者(共同研究者を含む)に向けて、発表資料作成のための説明会および個別相談会を開催しました。動画ファイル(ビデオ)に変換して提出する方法を解説する、実際に声の録音を試す、パワーポイントの体裁や見栄えに対して助言する等の支援を行いました。今年の学会参加は、視聴期間に山梨県看護協会ホームページにアクセスし、パスワードを用いて視聴する方法としました。COVID-19の収束が見えない時期であり、多くの不安を抱えての開催でしたが、山梨看護学会での発表に向けて準備されていた看護職のために、Webでも開催することができた手応えを感じています。現在、多くの学会や会議、セミナー等がオンラインで開催されていますので、積極的に参加されることをお勧めするとともに、どのような社会情勢であっても、看護研究を継続していただき、ご自身の研究成果を広く発表していただきたいと思います。

23.看護研究は、日常業務の素朴な疑問から

 看護研究は、卒後教育または職場の継続教育の一環として多く取り入れられていますが、何をどう進めて良いかわからない、研究したいけれど忙しくてなかなか取り組めない、通常の業務外で研究することに負担感がある等、苦手意識を持っている看護師も多いのではないでしょうか?看護研究を楽しく進めていくためには、日常業務で感じる疑問や、自分が本当に知りたいと思うことを研究テーマとして見出すことが大切です。普段何となく見過ごしてしまうことでも、「あれ?」「どうしてこうなるの?」「私が実践している看護はこれでいいの?」と思うことがあったら、書き留めておくことも必要です。その中で、類似した研究テーマでの先行研究を調べて、そこからさらに研究で何を知りたいのか、何を明確にしたいのかを絞り込んでいきましょう。例えば「体温測定における腋窩と額での測定の妥当性」「コロナ禍での面会謝絶の状態における入院患者と家族の思い」「アルコールに敏感な看護職の手洗いによる皮膚障害への工夫」「Web開催の学会に参加した看護職の満足度」など、日常業務の中での素朴な疑問や問題、気になっていることを研究し、実証してみてください。

24.看護研究することで得られるもの ~看護職の倫理綱領を紐解いて~

 今回は、日本看護協会の看護職の倫理綱領から看護研究の位置づけを確認していきたいと思います。
 看護職の倫理綱領は、看護職の行動指針であり自己の実践を振り返る際の基盤を提供するものとされ、16項目が提示されています。その11項目に「看護職は、研究や実践を通して、専門的知識・技術の創造と開発に努め、看護学の発展に寄与する。」と看護研究に関する内容があります。「実践を通して」というところがポイントだと思います。つまり、実践知の探求が重要だということです。研究者だけでなく、看護実践に携わる現場の看護職もその実施を負っていることになります。現場の看護職は、看護の対象者に向き合い、常に自問自答しながら対象者のニーズに合った良い看護を提供していくことに努めています。その日常の看護実践で研究的視点を持つとは、1つは研究成果を実践に活用すること、2つめは日々の疑問を実際に検証し現場で実践するという、実践の中に研究的視点と姿勢を持つことです。そのためには、まず自分の興味のある分野やテーマの研究論文に目を通してみることから始めてみても良いと思います。新たな叡智を得るだけでなく、研究としてまとめる際の学習にもなります。そして、研究者とも連携しながら看護研究に取り組むとよいでしょう。
 山梨看護学会でも毎年多くの看護研究が発表されています。興味のあるテーマを検索してみてください。新たな発見の糸口になると思います。

25.シリーズ看護研究のコツ・結びにかえて

 山梨県看護学会委員会では、山梨県内の看護職の研究推進支援の一環として、平成26年(2014年)1月より、やまなし看護協会ニュースに「シリーズ看護研究のコツ」と題して、情報提供を行ってまいりました。これまでに24回の連載を重ねてきましたが、このほど完結させていただく運びとなりました。看護研究について、少しでも会員の皆様のお役に立てたのであれば幸いです。過去の記事では、研究の進め方や、発表方法、論文のまとめ方など、看護研究に関連したテーマを考え、委員全員で記事を推敲し掲載してまいりました。山梨県看護協会ホームページに「アーカイブズ シリーズ看護研究のコツ」として掲載しております。興味のある記事から読むことができますので、どうぞご覧ください。これまでシリーズ看護研究のコツをご愛読くださりありがとうございました。私どもは、今後も引き続き、皆様が所属施設内での発表や数多くの学会での発表に向けて、看護研究に意欲的に取り組まれるよう、支援を推進する所存です。なお委員会では、皆様からのご意見・ご要望をお待ちしています。これからも山梨看護学会委員会をどうぞよろしくお願いいたします。

TOP